犬のリンパ腫は悪性腫瘍に該当し、治療を行わないと死に至る可能性のある病気です。
加齢に伴い突然症状が現れることもあるため、どのような病気でどのような治療をするのか、飼い主としてしっかりと把握しておく必要があります。
この記事では、犬のリンパ腫とはどのような病気なのかを解説します。
「これってリンパ腫の予兆かな?」と思うことがあれば、まずは当院にご相談ください。当院には腫瘍認定医が在籍しているため、精度の高い診察や適切な治療提案が可能です。
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目次
犬のリンパ腫とは?リンパ系細胞の腫瘍性増殖が起きる疾患
犬のリンパ腫とは、リンパ節やそのほかの臓器においてリンパ系細胞の腫瘍性増殖が起きる疾患のことです。リンパ系腫瘍の中には急性リンパ球性白血病、慢性リンパ球性白血病といったいわゆる白血病もあります。
リンパ節が腫れるタイプや鼻腔・肝臓・脾臓・胃といった臓器にできるタイプ、皮膚にできるタイプなど、バリエーションはさまざまです。
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犬のリンパ腫の原因
犬のリンパ腫の原因ははっきりと解明されていませんが、細胞の腫瘍化を止める体の恒常性を維持するシステムに、加齢などにより異常が起きることで発症すると考えられます。
人間のがんを想像すると分かりやすいでしょう。
リンパ腫を発症しやすい犬種
コロラド州立大学の研究結果によると、以下の犬種はB細胞型のリンパ腫を発症しやすいとされています。
- ダックスフンド
- ポメラニアン
- テリア犬種
- ビションフリーゼ
- イングリッシュブルドッグ
- ボストンテリア
- ジャックラッセル
- マルチーズ
- ヨークシャテリア
- シーズー
- コッカースパニエル
日本においては、飼育状況などを踏まえて考えると、小型犬での発生率が高い印象です。
犬のリンパ腫の分類と症状
犬のリンパ腫は以下のように分類され、それぞれ症状が異なります。
分類 | 特徴 | 症状 |
---|---|---|
多中心型 | 体表のリンパ節が腫大する | リンパ節の腫大に伴う違和感による食欲低下や元気消失など |
消化器型 | 胃腸管を中心に肝臓や膵臓に浸潤し、腸管膜リンパ節への腫瘍細胞の浸潤を伴う | 食欲低下や元気消失といった非特異的な症状に加えて、慢性下痢や血便、嘔吐など |
皮膚型 | 発症率は低いが、体のどの部分にも発生する可能性がある | 皮膚の紅斑、びらん・潰瘍、鱗屑(フケ)など |
縦隔型 | 最も発生率が少ない病型で、胸の中心部分にある前縦隔リンパ節や胸腺と呼ばれる部分が腫大する | 胸水貯留による呼吸困難や、多中心型・消化器型と同じ食欲低下や元気消失といった非特異的な症状 |
多中心型
多中心型は犬のリンパ腫の中で最も発生率が高く(70〜80%)、体表のリンパ節が腫大する病型です。
体表のリンパ節が大きくなるため、飼い主様が異常に気づかれて来院されるケースが多いです。体表のリンパ節は顎下、胸、脇、膝裏、股に存在しており、これらのどの部分も腫大する可能性があります。
特異的な症状はリンパ節の腫大以外にありませんが、リンパ節の腫大に伴う違和感が強くなり、食欲低下や元気消失などさまざまな症状を示す可能性があります。
抗がん剤治療では90%の症例で良好な治療反応を得ることができ、生存中央値は1年程度です。
消化器型
消化器型リンパ腫の定義は、胃腸管を中心に肝臓や膵臓に浸潤し、腸管膜リンパ節への腫瘍細胞の浸潤を伴うことです。犬のリンパ腫の中で2番目に発生頻度が高い病型です。
消化管のどの部分に腫瘍ができるかによって予後が大きく変わることが特徴の一つです。
多中心型と同じような食欲低下や元気消失といった非特異的な症状に加えて、慢性下痢や血便、嘔吐といった消化器の症状が主です。
治療に関しては一般的に予後が悪く、中央生存値は2〜3ヶ月ほどと言われています。しかし小細胞性(良性)のリンパ腫や、結直腸にできたリンパ腫であれば長期生存が可能です。
皮膚型
犬のリンパ腫の中で3番目に発生頻度が高い病型です(3〜8%)。皮膚腫瘍全体の1%がこの腫瘍に該当します。
症状は名前の通り、皮膚に紅斑、びらん・潰瘍、鱗屑(フケ)などが出ます。体幹部に症状が認められることが最も多く、半分くらいの症例で痒みを伴います。
予後は数ヶ月から2年程度と非常に幅広く報告があります。病変の位置や個体差によって大きく寿命が変わります。
縦隔型
縦隔型は、犬のリンパ腫の中で最も発生率が少ない病型です。胸の中心部分にある前縦隔リンパ節や胸腺と呼ばれる部分が腫大します。
症状としては、胸水貯留による呼吸困難や、多中心型・消化器型と同じ食欲低下や元気消失といった非特異的な症状です。
リンパ腫を発症した犬はどうなる?完治は難しいとされている
どのタイプのリンパ腫なのかによって予後は大きく異なります。また年齢や個体差によって症状が早く進むことも遅く進むこともあります。
高悪性度の多中心型の場合、無治療であれば約1ヶ月で亡くなってしまうことが多いと言われております。ステロイド単剤の治療だと、無治療と同様に約1ヶ月程度でなくなってしまいます。しかし抗がん剤治療を行うと、約1年ほど生きることができます。
治療に関してはいくつか種類がありますが、どれも完治させることは難しく、緩和やQOLの向上を目的に行います。
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犬のリンパ腫の検査・診断方法
リンパ腫の診断は、以下のようにさまざまな方法で行います。
触診
体表リンパ節の腫大があるかどうかをチェックします。
画像検査
体内のリンパ節の腫大やそれぞれの臓器に、画像上で異常がないかチェックします。
血液検査
リンパ腫に関連した異常がないかチェックします。
細胞診検査、病理検査
リンパ腫を確定診断するうえで最も大事な検査です。腫大したリンパ節や異常のある臓器に針を刺して細胞を取ります。場合によっては外科手術により病変部を切り取り、病理検査することもあります。
リンパ球の大きさや割合を見ることで、リンパ腫の悪性度や分類を行うことができます。
特殊検査
診断や分類をより正確に行うための補助の検査です。
クローナリティー検査(PARR)、フローサイトメトリー(FCM)、免疫組織化学(IHC)が現在の特殊検査としては一般的です。
犬のリンパ腫の治療方法
犬のリンパ腫の治療方法には、主に以下の3つがあります。
- 化学療法
- 外科療法
- 放射線療法
それぞれ詳しく解説していきます。
化学療法
犬のリンパ腫の治療において大部分を占めるのが抗がん剤治療です。
抗がん剤治療が積極的に選択される理由としては、抗がん剤に対する反応(治療成績)が非常に良いことや、手術や放射線と違って麻酔を必要としないことが挙げられます。
人間の抗がん剤は完治を目指して高用量で使用するのに対して、犬の抗がん剤は寛解(一時的に症状が軽くなる・消える状態)を目的に使用されます。そのため、飼い主さんの想像よりも副作用は軽度であり、対症療法で管理できることが多いです。
しかし、抗がん剤の種類によっては大きな副作用が出ることもあるので注意が必要です。
具体的な治療としては、リンパ腫の種類に合った抗がん剤を注射もしくは内服で体内に摂取します。リンパ腫の種類にもよりますが、1〜3週間おきに抗がん剤治療を行います。
例えば最も一般的なuw-25という治療では、複数の抗がん剤を1〜2週間おきに25週間にわたって注射します。他にも、3週間おきに飲むタイプの抗がん剤など、さまざまな治療方法があります。
治療反応は本人の症状や画像所見で評価します。
どの抗がん剤が効くのか、副作用がどの程度なのかは個体差が大きいです。そのため、ご家族の考えや本人の性格、QOLなどを総合的に考えて、一番合った抗がん剤治療を選択することが最も大切です。
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外科療法
リンパ腫は血液の病気なので、全身療法が必要になることがほとんどであり、手術による完治は難しいです。
しかし手術+抗がん剤、手術+放射線のように組み合わせることで、より効果的な治療を行うことができます。
愛犬の状態に合わせて手術が最善の方法であるならば、手術を行ってもいいでしょう。
放射線療法
リンパ腫の種類によっては、抗がん剤よりも放射線の方が反応が良いことがあるので、そのような時に第一選択の治療になります。
放射線は麻酔が必要であり、複数回の照射を必要とすることから、ややハードルが高い治療方法と言えます。
また、放射線機器の種類によって治療成績が異なる場合があるので、治療を行う場合には大きな施設で実施するのがおすすめです。
食事療法
一般的に食事だけでリンパ腫が治ることはありません。
しかし、消化器症状や体重減少を少しでも防ぐために、それぞれの状態にあった適切な食事(高タンパク食や消化器ご飯など)を選択することが重要です。
リンパ腫になった犬が長生きするケースはある?
リンパ腫の犬が、我々の想像や過去のデータを超えて長生きすることは実際にあります。
リンパ腫が低悪性度の場合や、高悪性度でも抗がん剤などの治療反応が良く寛解状態を長く維持できた場合には、長く一緒にいることができます。
犬のリンパ腫を予防するには
犬のリンパ腫を根本から予防することはできませんが、近くで喫煙をしないなど、日常の生活環境を整えることでさまざまな病気の発症リスクを減らすことができます。
一番大切なのは早期発見です。日常から愛犬の様子をよく見て、よく触れ合うことで小さな変化により気付きやすくなります。
また、定期的な健康診断も非常に効果的なので、動物病院をうまく活用してください。
犬のリンパ腫治療に関する最新動向
リンパ腫の分類などはこの10年間で大きく変わりましたが、臨床現場での治療は昔から大きく変わったものは多くはありません。
しかしその中でも、LOPPプロトコルなど近年の研究により、今までの治療に比べてより予後を改善する薬の組み合わせが報告されています。
アメリカで承認された新しい飲み薬「Verdinexor」は今までの治療では効果がなかった症例でも効果が期待でき、再発予防にも効果的と報告されています。
また、ヒトの医学では免疫治療が注目されているため、犬にも効果的な免疫治療ができる日が近い将来くるかもしれません。
犬のリンパ腫に関するよくある質問
犬のオス・メスはリンパ腫の発症と関係しますか?
報告元にもよりますが、中高齢のメスの発症が多いとされています。
犬のリンパ腫は何歳くらいで発症しやすいですか?
特殊な場合(若齢のダックスの小腸)を除き、中高齢での発症がほとんどです。
犬のリンパ腫に良性は存在しますか?
低悪性度のことを「良性」と表現することがあります。低悪性度の場合、実際に予後は高悪性度に比べると明らかに違います。
※リンパ腫は高悪性度(悪性、低分化型、ハイグレード)と低悪性度(良性、高分化型、ローグレード)の2種類に分類されます。
犬が急にご飯を食べなくなるのはリンパ腫の予兆ですか?
リンパ腫における特異的な症状ではありませんが、食欲減退はリンパ腫をはじめ多くの病気の初期症状の可能性があります。
愛犬の食欲が低下したときは、迷わずに動物病院を受診することをおすすめします。
犬のリンパ腫は早期発見・早期治療が大切
犬のリンパ腫とは、リンパ節やそのほかの臓器においてリンパ系細胞の腫瘍性増殖が起きる疾患のことです。残念ながら完治は難しく、緩和やQOLの向上を目的とした治療を行うことになります。
ただし、必ずしも長生きが不可能なわけではなく、早期発見・早期治療でその後も長く一緒にいられる場合もあります。
少しでも不安がある場合は、腫瘍認定医が在籍する当院にご相談ください。
当院では精度の高い診察に加え、他院で治療ができなかった・治療の反応が悪かった場合のセカンドオピニオンにも対応しています。
1日でも早い受診が、愛犬の健康を助けることにつながります。
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