猫の感染病には、ワクチンで防げるものと防げないものがあります。
中には死に至る可能性を含む感染病もあるため、猫と一緒に暮らすうえではその種類と予防方法をきちんと理解しておくことが大切です。
この記事では、代表的な猫の感染病をまとめて紹介します。
この記事の監修者

上野雅祐
上池台動物病院の院長を務める。海外でのセミナーや国際学会、海外大学への短期留学などでジャンルに囚われない幅広いスキルを磨き、外科・腫瘍・皮膚等の専門的で総合的な治療を提供する。
- 監修者情報
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▼略歴
- 麻布大学 獣医学科卒業(学業成績優秀者)
- 千葉県 中核の動物病院にて勤務医
- 神奈川県 外科認定医・整形専門病院にて勤務医
- 専門病院にて一般外科・整形外科に従事
- 日本小動物がんセンター 研修医
▼所属学会・資格- 日本獣医がん学会
- 日本獣医画像診断学会
- 日本小動物歯科研究会
- 日本獣医麻酔外科学会
- 日本獣医循環器学会
- 日本獣医皮膚科学会
- 獣医腫瘍科認定医Ⅱ種
- ヒルズ栄養学コース修了
- Royal Canin Canine and Feline Clinical Nutrition Course修了
- 日本小動物歯科研究会 歯科レベル2
- 日本小動物歯科研究会 歯科レベル4
ワクチン接種で予防できない猫の伝染病

以下は、ワクチン接種で予防できない猫の伝染病です。
- 猫伝染性腹膜炎(FIP)
- 猫免疫不全ウイルス感染症(FIV)
感染経路と予防法とともに押さえておきましょう。
猫伝染性腹膜炎(FIP)

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、本来は病気を起こす性質が弱い猫コロナウイルスが突然変異することによって起こる病気です。
無治療の場合はほぼ100%で死に至り、生存期間は約9日間と短いのが特徴です。
症状
ウェットタイプとドライタイプの2種類があります。
分類 | 症状 |
---|---|
ウェットタイプ | 胸水・腹水の貯留、発熱、黄疸、沈鬱、食欲低下、貧血、嘔吐、下痢 |
ドライタイプ | 発熱、沈鬱、貧血、内臓の肉芽腫性炎、ぶどう膜炎 |
感染経路
変異前の腸内の猫コロナウイルスは糞便中や唾液中に排泄されるため、糞尿を介して感染します。
予防法
以下を心がけ、変異前の猫コロナウイルスへの感染を避けましょう。
- 外飼いをしない
- 多頭飼いをしない
- ストレスの少ない環境を整える
- 定期的にPCR検査を実施する
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猫免疫不全ウイルス感染症(FIV)

猫免疫不全ウイルス感染症(FIV)は「猫エイズ」とも呼ばれる感染症です。感染すると1年くらいはリンパ節などが腫れ、下痢などの症状を繰り返したりしますが、そのうち症状が消え、外見上は普通の猫と区別がつかなくなります。
猫免疫不全ウイルス感染症に感染していながらも、長生きする猫は多いです。ただし、抵抗力の低下によって他のさまざまな病気を引き起こしやすくなるため、健康な子よりも死亡率は高いです。
なお、猫免疫不全ウイルスが猫から人、猫から犬に感染することはありません。
症状
- 発熱
- リンパ節の腫れ
- 食欲不振
- 体重減少
- 下痢
など
感染経路
- 他の猫との喧嘩
- 食器などの共有
- 胎盤感染
- 授乳による感染
予防法
他の猫との喧嘩を避けるために、室内飼育を徹底しましょう。また、多頭飼いの場合は、共通の食器などを熱湯で消毒することも大切です。
ワクチン接種で予防できる猫の伝染病

以下は、ワクチン接種で予防できる猫の伝染病です。
- 猫汎白血球減少症
- 猫ウイルス性鼻気管炎(FVR)
- 猫カリシウイルス感染症(FCV)
- 猫白血病ウイルス感染症(FeLV)
- クラミジア感染症
ただし、ワクチンを接種したからといって100%防げるわけではないため、感染経路や予防法はきちんと押さえておきましょう。
猫汎白血球減少症

猫汎白血球減少症は、猫パルボウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患です。子猫や若い猫が発病しやすく、感染してから数日で症状が出ます。
極めて伝染力の強いウイルスであるため、同じ家の子猫が次から次へと発症してしまうことも珍しくありません。
感染すると白血球がなくなるため、さまざまな病原体に対する抵抗力が下がってしまいます。
症状
- 食欲不振
- 嘔吐
- 下痢
など
感染経路
感染猫やウイルスとの接触
予防法
ワクチン接種をして、室内飼育を徹底しましょう。
洗剤やアルコールなどではウイルスは死滅しないため、飼い主がウイルスを家に持ち運ぶこともあります。そのため、ワクチン接種は非常に重要です。
猫ウイルス性鼻気管炎(FVR)

猫ウイルス性鼻気管炎(FVR)は、猫ヘルペスウイルス1型によって引き起こされる感染症です。風邪の症状が始まって3〜4日で病状がもっとも激しくなりますが、通常は1週間ぐらいで回復します。
ただし、子猫の場合は生命に危険を及ぼすこともあります。
症状
- 食欲不振
- 発熱
- 鼻汁
- くしゃみ
- 結膜炎
など
感染経路
感染猫のくしゃみや分泌物との接触
なお、一度かかった猫は免疫を持った状態となりますが、同時にウイルスも持っている状態でもあり、感染源となります。
予防法
ワクチン接種をして、感染猫との接触を避けましょう。
なお、母猫が以前にかかったことがあれば、子猫も免疫を持って生まれてきます。ただし、母猫譲りの免疫は長続きしません。
猫カリシウイルス感染症(FCV)

猫カリシウイルス感染症(FCV)は、流行するウイルスの型で病気が異なります。
- 鼻気管炎と似た症状を起こすもの
- 口の中に潰瘍を作るもの
- 肺炎を起こすもの
- 腸に感染して特に症状を出さないもの
通常であれば、2週間以内には回復します。
症状
- 食欲不振
- 発熱
- 鼻汁
- くしゃみ
- 口の中の潰瘍
など
感染経路
感染猫のくしゃみや分泌物との接触
なお、一度かかった猫は免疫を持った状態となりますが、同時にウイルスも持っている状態でもあり、感染源となります。
予防法
ワクチン接種をして、感染猫との接触を避けましょう。
洗剤やアルコールなどではウイルスは死滅しないため、飼い主がウイルスを家に持ち運ぶこともあります。そのため、ワクチン接種は非常に重要です。
なお、母猫が以前にかかったことがあれば、子猫も免疫を持って生まれてきます。ただし、母猫譲りの免疫は長続きしません。
猫白血病ウイルス感染症(FeLV)

猫白血病ウイルス感染症(FeLV)は、赤血球や白血球、血小板などの減少・異常増殖を引き起こす感染症です。発症してしまうと完治が難しいのが現状です。
症状
- 食欲不振
- 口内炎
- 体重減少
- 嘔吐
- 下痢
など
感染経路
- 感染した猫の唾液や鼻汁との接触
- 感染した猫とのケンカ
など
予防法
ワクチン接種をしたうえで、ケンカを避けるために室内飼育を徹底しましょう。
共通の食器などを熱湯で消毒することも大切です。ウイルス自体はあまり強くないため、簡単な消毒で死滅します。
クラミジア感染症

猫のクラミジア感染症は、クラミジア・フェリスヘルペスという細菌が原因で発生する感染症です。猫ヘルペスウイルスや猫カリシウイルスと複合感染することが多いです。
単独の感染ではさほど危険な病気ではありませんが、複合感染をすると重症化します。
症状
- くしゃみ
- 鼻炎
- 化膿性結膜炎
など
感染経路
感染した猫の鼻汁や目やにとの接触
予防法
共通の食器などは熱湯で消毒しましょう。
稀に人でも結膜炎を起こすことがあるので注意が必要です。
室内飼いの猫でも伝染病にかかる可能性はある?

室内飼いの猫でも、伝染病にかかる可能性はあります。ウイルスの中には、通常の消毒では死滅しないものもあるためです。
また、感染猫との接触だけではなく、飼い主が家にウイルスを持ち込むこともあるため、思いがけず伝染病にかかる可能性もあります。
猫の伝染病を予防するために接種するべきワクチン

予防効果のある感染症 | 3種混合ワクチン | 5種混合ワクチン |
---|---|---|
猫汎白血球減少症 (パルボウイルス) | ● | ● |
猫ウイルス性鼻気管炎 (ヘルペスウイルス) | ● | ● |
猫カリシウイルス | ● | ● |
猫白血病ウイルス | ● | |
猫クラミジア感染症 | ● |
外に出る習慣がある猫や、将来新しく保護猫を迎え入れる予定があるご家庭では、5種混合ワクチンを接種するのが望ましいです。完全に室内で過ごす場合で、かつ他の保護猫を招き入れる予定がないなら、3種のワクチンでも良いでしょう。
成猫の場合は、年1回のワクチン接種をおすすめします。
まとめ

ワクチン接種で予防できない猫の伝染病 | ・猫伝染性腹膜炎(FIP) ・猫免疫不全ウイルス感染症(FIV) |
---|---|
ワクチン接種で予防できる猫の伝染病 | ・猫汎白血球減少症猫ウイルス性鼻気管炎(FVR) ・猫カリシウイルス感染症(FCV) ・猫白血病ウイルス感染症(FeLV) ・クラミジア感染症 |
ワクチン接種で予防できる猫の伝染病は多いため、猫と一緒に暮らすうえでワクチン接種は必ず行うようにしましょう。
ワクチン接種で予防できない猫の伝染病として、猫伝染性腹膜炎(FIP)は致死性の高い恐ろしい病気です。ストレスの少ない環境を整える、定期的にPCR検査を受けるといった予防はもちろん、少しでも体調に異変を感じた際は、動物病院で診てもらうことが大切です。