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コラム COLUMN

猫のFIP(猫伝染性腹膜炎)とは?症状や治療費の相場などを解説

更新日:2026年6月24日  公開日:2023年11月6日

FIP(猫伝染性腹膜炎)は、「猫コロナウイルス」の突然変異によって発症する病気です。

FIPは無治療ならほぼ確実に死に至る病気ですが、早期発見して適切に治療すれば治る可能性があります

ここでは、猫のFIPとはどんな病気であるのかを紹介したうえで、症状や治療費の相場などを解説します。

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この記事の監修者

上野雅祐

上池台動物病院の院長を務める。海外でのセミナーや国際学会、海外大学への短期留学などでジャンルに囚われない幅広いスキルを磨き、外科・腫瘍・皮膚等の専門的で総合的な治療を提供する。

監修者情報

▼略歴

  • 麻布大学 獣医学科卒業(学業成績優秀者)
  • 千葉県 中核の動物病院にて勤務医
  • 神奈川県 外科認定医・整形専門病院にて勤務医
  • 専門病院にて一般外科・整形外科に従事
  • 日本小動物がんセンター 研修医


▼所属学会・資格

猫のFIP(猫伝染性腹膜炎)とは?幼猫に発症することのあるウイルス感染症

猫のFIP(猫伝染性腹膜炎)とは

FIPは「猫伝染性腹膜炎」の略で、猫コロナウイルスが関係して起こる病気です。若い猫、特に2歳以下での発症が多いとされています。

「伝染性」という言葉が病名に入っているため、猫から猫へ簡単にうつる病気のように思われがちですが、実際には少し違います。猫の腸内にすみつく猫コロナウイルスが、何らかのきっかけで体内で変異し、強い炎症を引き起こすことでFIPになると考えられています(※1、2)。

猫コロナウイルス自体は日本の多くの猫が保有しているとされ、感染してもほとんどは無症状か、軽い下痢で済みます。FIPを発症するのは、そのうちのごく一部です。

FIPがやっかいなのは、ウイルスそのものの働きだけでなく、猫自身の免疫反応が病気の進行に深く関わっている点です。変異したウイルスが免疫細胞(マクロファージ)に感染し、血管や臓器の周りで激しい炎症を起こすことで、全身の状態がじわじわと悪化していきます。

無治療の場合ほぼ100%で死に至り、生存期間の中央値は約9日間と短いのが特徴です(※3)。ただし近年は治療技術の進歩により「治せる病気」となっており、実際に当院でも約95%の改善率が見込めています。

(※1)参考:日本臨床獣医学フォーラム(JBVP)「猫伝染性腹膜炎(FIP)」
(※2)参考:Royal Canin「猫コロナウイルスと猫伝染性腹膜炎(FIP)
(※3)参考:Effect of Feline Interferon-Omega on the Survival Time and Quality of Life of Cats with Feline Infectious Peritonitis

FIPに感染した猫に現れる症状

FIPに感染した猫に現れる症状

FIPには「ウェットタイプ」と「ドライタイプ」の2種類があり、それぞれ症状が異なります。

  • ウェットタイプ:水分がお腹や胸に溜まる
  • ドライタイプ:さまざまな臓器にしこり(肉芽)ができ、しこりの場所によって現れる症状が異なる
共通して現れる症状・黄疸(皮膚が黄色くなる)
・発熱や貧血沈鬱(元気がない状態)
・食欲不振
・体重減少
ウェットタイプ特有の症状・腹水
・胸水
・呼吸困難
ドライタイプ特有の症状・眼の色の変化(レッドアイ)
・視力の変化歩行異常(ふらつく等)
・痙攣
・腎障害
・肝障害

黄疸(皮膚が黄色くなる)は特に注意したい症状です。黄疸が現れているFIPの猫は、現れていない猫に比べて予後が悪い傾向があることが報告されています(※1)。黄疸の原因となる血液中のビリルビン値は、体内の炎症や肝臓・胆道の状態を反映するため、黄疸が見られる場合は注意が必要なサインといえます。

▼黄疸

猫のFIPによる黄疸

ウェットタイプに関しては、腹水は見た目でわかりやすいものの、胸水は見た目ではわかりづらいです。胸水が溜まっている場合、呼吸異常が観察される傾向があります。

ドライタイプ特有に関しては、眼の色の変化(レッドアイ)に加え、神経症状として歩行異常が現れやすいです。

ただし実際のところ、FIPの症状は多種多様なため、症状からFIPだと断定するのは非常に難しいです。元気がなく弱っている様子が見られたら、すぐに動物病院を受診しましょう。

(※1)参考:Analysis of risk factors, clinical data, treatment outcomes for cats with feline infectious peritonitis using GS-441524 (2020–2024)

FIPの原因は?猫コロナウイルスの突然変異で起こる

FIPの原因

FIPの原因は、猫コロナウイルスが突然変異し、強毒性のFIPウイルスになることです。

そもそもの原因となる猫コロナウイルスは、以下のような経路で移るとされています。

  • 外飼い
  • 多頭飼い
  • 野良猫のお出迎え
  • 保護施設やブリーダーからのお出迎え

他の猫との接触を避け、猫コロナウイルスに感染させないことが、FIPを発症させないための根本的な予防となります。

ただし実際のところ、猫コロナウイルス自体は多くの猫が保有しているウイルスです。保護施設やブリーダーからお迎えした時点で感染しているケースも少なくありません。

よって、次に考えるべきことは「猫コロナウイルスをFIPへと変異させないこと」ですが、猫コロナウイルスがFIPウイルスに変異するメカニズムは明確になっておらず、ワクチンなどで発症を防げないのが現状です。

ただし、ストレスで猫の免疫が落ちることで、猫コロナウイルスがFIPに発展するという報告もあります(※1)。飼育環境を整え、猫へ極力ストレスを与えないことも、FIPの発症を防ぐために重要です。

(※1)参考:A retrospective study of clinical and laboratory features and treatment on cats highly suspected of feline infectious peritonitis in Wuhan, China

猫コロナウイルスの詳細はこちら

FIPの疑いがある猫に実施する検査

猫のFIPは、以下のような検査を組み合わせ総合的に判断していきます。

  • 血液検査
  • 貯留液の検査
  • 画像検査(レントゲン・超音波)
  • 遺伝子検査(PCR検査)

一つの検査だけで結論が出るものではなく、いくつかの検査を組み合わせて慎重に進められます。ガイドラインでも、包括的な身体検査の所見を考慮し、FIPの疑いの度合いを「レンガを一つずつ積み上げるように構築していく」としています(※1)。

検査の結果がすぐにはっきりしないこともありますが、愛猫の様子で気になる点があれば、早めにかかりつけの動物病院に相談することが大切です。

(※1)参考:2022 AAFP/EveryCat Feline Infectious Peritonitis Diagnosis Guidelines

FIPを発症した猫の治療方法は?投薬が基本

FIPを発症した猫の治療

FIPの治療は、投薬が基本です。原因となる猫コロナウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬を、84日間(約3か月)にわたって毎日継続して投与します(※)。

代表的な薬にはムティアン(GS-441524系の製品)やモルヌピラビルがあり、症状や進行度、ご家庭の状況などを踏まえて、獣医師と相談しながら選択していきます。

ここで大切なのは、84日間ただ薬を投与するだけではないということです。例えば、途中で状態が悪化する、薬に耐性ができてしまうというケースも考えられるため、症状や血液検査の数値の改善を確認しながら治療を進めていきます。

また、すべての猫が84日間で治療を終えられるわけではありません。投薬をやめて3〜4日ほどで症状がぶり返す「再発」がみられるケースもあり、その場合は投薬期間を延長して様子を見ることがあります。

(※1)参考:Efficacy and safety of the nucleoside analog GS-441524 for treatment of cats with naturally occurring feline infectious peritonitis

FIPの治療方法の詳細はこちら

猫のFIPは治る?投薬での生存率は80%以上

FIPは投薬治療を行えば生存率の向上が期待できます。ムティアン、CFN、モヌルピラビルなどの抗ウイルス薬が有効と報告されています。

猫のFIPの治療薬

中でもMUTIANは、下記のような研究結果が報告されています。

<研究結果>

  • ウェットタイプFIPに罹患した猫141匹にMUTIAN Xを投与。116匹が生き残り、残りの25匹が治療中に死亡した。(生存率82.2%)
  • 84日間の投薬後に生存していた116匹中、4週間以内に再発したのは3匹。(投薬終了後の再発率2.5%)

引用:Therapeutic Effects of Mutian® Xraphconn on 141 Client-Owned Cats with Feline Infectious Peritonitis Predicted by Total Bilirubin Levels – PMC

治療をした際の生存率は約8割と高く、FIPは治る病気であることがわかります。ただし、FIP末期になると治療効果が出にくくなるため、早期治療が求められます。

猫のFIPの治療費は15万円〜100万円が相場|状態や薬剤で大きく変わる

猫のFIPの治療費の相場は、84日間の投薬を前提とすると、15万円〜100万円程度と幅広いです。

治療費は、FIPの進行度合いで変わってくるのはもちろん、選択する薬剤によっても大きく変わってきます。

薬剤治療費の相場
ムティアン(GS-441524系の製品)60〜100万円程度 / 84日間
モルヌピラビル15〜30万円程度 / 84日間

※あくまで相場なので、実際の治療費はかかりつけの動物病院にご確認ください。

ムティアン(GS-441524系の製品)は信頼性が高く、症例数も多いため、現在に至るまで代表的なFIP治療薬として知られています。ガイドラインでも、GS-441524がFIPの第一選択治療として推奨されています(※1)。

モルヌピラビルは近年流通している低コストな治療薬で、こちらを選択すれば治療費は半分以下に抑えられます。治療費を10万円台からとしている動物病院は、基本的にモルヌピラビルの使用を前提していると考えていいでしょう。

ただしモルヌピラビルに関しては、症例数が少なく安全性が確立されていない点に注意すべきです。また、神経や眼に症状が出る症例や治療反応の悪い症例では、投薬が高用量・長期間に及び副作用リスクが高まります。

もちろんモルヌピラビルは、これまでFIP治療の課題であった「愛猫がFIPになってしまったが、治療費が高くて何もできない」というケースを救う存在であり、当院でも導入しています。

最終的にどのように治療を進めていくかは、愛猫の状態を踏まえ獣医師とよく相談して決定しましょう。

(※1)参考:GUIDELINE for Feline Infectious Peritonitis

猫のFIPに使うGS-441524の詳細はこちら

猫のFIPに使うモルヌピラビルの詳細はこちら

当院ではムティアンとモルヌピラビルの両方を導入しており、治療経過に応じて薬を切り替え、経済的な負担を抑える提案もしています。

▼当院での治療費の例

当院での治療費の例

※こちらはあくまで例で、実際の治療費はFIPの進行度合いによって変わってきます

猫のFIPは「複数の治療薬の選択肢がある病院」を選ぶべき

近年は治療費が安価なモルヌピラビルが市場に広く流通したことで、猫のFIPを診察する動物病院が増えてきました。

経済的な観点で「費用を抑えるために、モルヌピラビルで安く治療できる病院を選ぶ」は間違いではないものの、「複数の治療薬の選択肢があるか」は必ず確認しておきましょう。

なぜなら、FIPを患った猫は治療中に薬への耐性ができ、薬が効かなくなってしまうケースがあるからです。もちろんモルヌピラビルだけで治れば良いのですが、仮にモルヌピラビルが効かないと判断された場合、2種類目の薬の選択肢がないとそれ以上の打ち手がありません

最初に相談した際に、取り扱っている治療薬の種類は必ず確認しておきましょう。

当院におけるFIPの症例

他院での治療の反応が良くなく、当院を受診された症例です。FIPの治療は一般的に84日間を一区切りに行いますが、この症例では1年近くの期間を費やしています。

当初、この写真のように、猫ちゃんは痩せ細ってしまっていました。診療を受けるのは、当院で3院目でした。

▼治療前の様子

FIPで痩せ細った猫

1つ目の病院では、FIPの治療で近年よく使われるモルヌピラビルという薬を経口投与していました。しかし、2ヶ月間投与を続けても、まったくよくなりませんでした。

そこで、別の動物病院を受診。次は1ヶ月間、種類の違うモルヌピラビルを投与しました。それでもよくならないため、ムティアンという別の薬を2ヶ月経口投与しましたが、状態は改善せず。

その後に当院を受診されたのですが、この時点で6ヶ月が経過しています。一般的なFIP治療が84日間であることを考えると、いかに長く治療を継続しているかが分かるでしょう。

▼α1AGの検査結果(当院での検査)

α1AGの検査結果

▼蛋白分画の検査結果(当院での検査)

蛋白分画の検査結果

「半年間継続して薬を投与しているのに、なぜ治らないのか?」これを明確にするために、原因を探ったところ、経口投与した薬が便と一緒に排出されていたことがわかりました。そこで当院では、ムティアンを経口投与ではなく注射で投与する判断に至りました。

その後も試行錯誤して治療を重ね、検査数値の改善が見られたのですが、ここで何より知見が求められるのが「薬の投与をいつやめるか」の判断です。FIPの治療は、投薬をやめて3日程度で再発するケースが多いため、検査数値を見つつ継続か終了かを判断します。

この猫ちゃんに関しては、状態が改善しつつも「完全に数値がよくなった」と言い切れる状況ではありませんでした。しかし、他院で6ヶ月、当院で6ヶ月と計1年間にわたって治療を継続していることを鑑みると、副作用の観点からこれ以上薬の投与を続けるのも危険があります。

そこで、全体のバランスを見て薬の投与をやめることを決断。投与をやめてから3日間は、我々も一切気が抜けない状況でした。

結果として、投与終了から3日経っても状態に問題はなく、1ヶ月後には非常に元気な状態に。飼い主さまから見ても「普通の状態と変わらない」というくらいまで治りました。

▼治療終了から1ヶ月後の様子

FIP治療終了から1ヶ月後の様子

「なぜ6ヶ月もの間、薬が効かなかったのか?」
「本当にその薬は猫ちゃんに合っているのか?」
「薬はいつまで続けるべきか?」

これらを適切に見極め、最後まで諦めなかったことで、命を救えた症例です。

猫のFIP治療の最新動向

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抗ウイルス薬の登場によって「治る病気」へと大きく変わったFIPですが、研究は今も進み続けています。ここでは、近年明らかになってきた治療の最新動向を3つの観点から紹介します。

FIPの治療期間を短縮できる可能性の示唆(2024年/ドイツ・ミュンヘン大学)

これまでFIPの抗ウイルス薬治療は、84日間(12週間)が標準とされてきました。しかし2024年にドイツ・ミュンヘン大学(LMU)が発表した研究では、お腹や胸に水が溜まる「ウェットタイプ」のFIPにおいて、42日間の投与でも84日間と同等の効果が得られたと報告されています。

投薬期間が短くなれば、費用や毎日の投薬にともなう猫と飼い主の負担を軽減できる可能性があります。

ただし、これはあくまで特定のタイプを対象とした研究段階の知見であり、現時点での標準的な治療期間は84日間です。実際の治療方針は、必ず獣医師の判断のもとで決めることが大切です。

参考:Short Treatment of 42 Days with Oral GS-441524 Results in Equal Efficacy as the Recommended 84-Day Treatment in Cats Suffering from Feline Infectious Peritonitis with Effusion—A Prospective Randomized Controlled Study

神経症状をともなう再発への治療法が前進(2025年/チューリッヒ大学ほか)

FIPは治療をやめたあとに再発することがあり、なかでも脳や神経に症状が現れるケースは、対応が難しいとされてきました。しかし近年は、再発した場合の治療法についても知見が蓄積されつつあります。

2025年に報告された症例研究では、神経症状が再びあらわれた猫に対し、抗ウイルス薬を増量して再投与し、丁寧なケアを組み合わせることで、良好な長期経過が得られたと示されています。再発は決して「打つ手なし」ではなく、適切に対応すれば回復を目指せるケースもあることがわかってきています。

参考:Navigating Neurological Re-emergence in Feline Infectious Peritonitis: Challenges and Insights from GS-441524 and Remdesivir Treatment

猫に投薬しやすい新しい剤形の開発(2025年/韓国・忠南大学校)

FIPは薬の効果が確認される一方で、「猫が薬を嫌がって飲んでくれない」という投薬のしづらさが飼い主を困らせるケースがありました。

こうした課題を解決するため、より投薬しやすい薬の開発も進められています。2025年の研究では、抗ウイルス薬の成分を改良して水に溶けやすくし、猫の口の中で素早く崩れる「口腔内崩壊錠(ODT)」を開発する試みが報告されました。

まだ研究段階ではありますが、治療を続けやすくするための工夫が着実に進んでいます。今後、こうした技術が実用化されれば、飼い主の負担はさらに軽くなることが期待されます。

参考:A dual-strategy approach to improve GS-441524 therapy in feline infectious peritonitis: salt engineering and orally disintegrating tablet development

まとめ

猫

FIP(猫伝染性腹膜炎)は、かつては死に至る病気とされてきましたが、抗ウイルス薬による治療法が確立された現在は、早期に発見して適切に治療すれば回復を目指せる病気へと変わっています。

症状は黄疸や発熱、腹水など多種多様で、見た目だけで判断するのは難しいため、元気がない・食欲がないといった変化に気づいたら、できるだけ早く動物病院を受診することが大切です。

費用や治療方針も含め、信頼できる動物病院とよく相談しながら、愛猫に合った治療を進めていきましょう。

当院は猫のFIPに対し、年間約300件の治療実績があります。FIPは早期発見・治療が非常に重要なので、まずは以下より当院へご連絡ください。

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