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猫のFIP(猫伝染性腹膜炎)の症状と治療(MUTIAN、Xraphconn)について

東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の皆様こんにちは。大田区の上池台動物病院の院長の上野です。今回は、猫のFIP(猫伝染性腹膜炎)の症状と当院での治療方法について解説をしていきます。

 

1.猫のFIP(猫伝染性腹膜炎)とは

 FIPはFIPウイルスによる感染症で、発症するとほぼ100%死んでしまうとても怖い病気です。通常、1歳以下の子猫に好発し、発症後の平均生存期間も約9日ととても短く、FIPは可愛い子猫たちに対する脅威です。また、FIPは純血種の猫ちゃんに多い傾向にあります。

 

 FIPはこんなに恐ろしい病気ですが、FIPとはとても珍しい病気、というわけではなく、どこにでも存在し、どの猫ちゃんにも感染する可能性がある、実は一般的な病気なのです。

 

2.猫のFIPの原因

FIPはFIPウイルスの感染によって起こりますが、FIPウイルスとは猫コロナウイルスの変異株なのです。元々、猫コロナウイルスは家猫、特に多頭飼育されている猫ちゃんたちの中で広く蔓延している一般的なウイルスです。猫コロナウイルスには、猫腸コロナウイルスと、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPウイルス)の2種類が存在します。

 

猫腸コロナウイルスは、人間のコロナウイルスのように重篤な呼吸器感染症を引き起こすわけではなく、軽度の下痢や無症候性感染を引き起こすだけです。しかし、その猫コロナウイルスのうちの一部が、致死的な感染症であるFIPを引き起こすFIPウイルスに変異してしまうのです。すなわち、FIPウイルスとは、猫コロナウイルスという一般的なウイルスの強毒型なのです。猫コロナウイルスに感染した猫ちゃん9頭のうち1頭(約12%)がFIPを発症すると言われています。少ないように感じますが、猫コロナ陽性の猫ちゃん10匹の中で、1匹はFIPになってしまうと考えると結構多いですよね。

 

猫コロナウイルスの主な感染源は糞便であると言われています。唾液や妊娠による母猫からのウイルスをもらうことは稀ではありますが、猫コロナウイルス感染猫では唾液中にウイルス遺伝子が検出されることがあるので、食器の共有には注意が必要です。また、FIPはストレスが原因で罹患しやすくなるとも言われています。

 

3.FIPにみられるよくある症状

 FIPの病型は、お腹や胸にお水が溜まってしまうウェットタイプ(滲出型)と、色々な臓器に病変を形成するドライタイプ(非滲出型)のふたつがあります。どちらのタイプのFIPも、一般的な臨床症状としては、抗生物質に反応しない発熱、沈鬱、食欲不振、体重減少などがあります。FIPに感染した猫ちゃんは、黒目の周りの色が変色したり、目が白くなったり、はたまた赤くなったりするなどの眼の症状が認められることもあります。また、FIPでは神経症状が見られることもあり(10%以下)、運動失調、知覚過敏、眼振(眼球が揺れるように動くこと)、発作、行動の変化、脳神経障害などの症状を引き起こします。このように、FIPの臨床症状は様々であり、病変部位によっても異なるため、症状だけではFIPの鑑別は不可能なのです。

そのため、最近元気がない、お腹が膨らんできた、目の色がおかしい、歩き方が変、発作が起きた、などの症状があれば、ぜひ早めの受診をおすすめします。

 

4.FIPの治療方法と当院の治療アプローチ

FIPの治療には、有効とされている治療薬(注射、飲み薬)を使います。基本的には、84日間、1日1回のお家での飲み薬で寛解を目指していきます。当院では、FIPの治療に効果的との報告が多いmutianという薬と、人の新型コロナウイルス薬を使用することが可能です。

 

FIPを治療するにあたり一番大切なことは、その子が本当にFIPであるのか、ということです。そのため、治療を進めるにあたっては、最初に各種検査を実施し、FIPの診断を行います。次に、大切なことは、早期発見、早期治療です。FIPは発症すると致死率がほぼ100%であり、また平均予後が9日間ととても短いため、早急な対応が必要となります。

 

FIPと診断された場合には、その後の治療方針を決定し治療を行います。その子の症状やFIPのタイプによって薬の量が変わるので、検査結果からその子に合った治療内容を作成します。84日間の投薬期間の間は1週間ごとに通院してもらい、猫ちゃんの状態に合わせて血液検査、画像検査を行って治療効果を判定します。投薬開始から投薬が終了する84日目までしっかりと経過管理を行います。84日間の投薬後、再発症状がなければ1ヶ月毎の定期チェックを行い、数ヶ月、問題なければ寛解と判断し治療を終了します。

 

FIPはとても怖い病気ですが、しっかりとした治療方法で治療を行えば、かなりの確率で寛解が望める病気です。

5.FIPの治療薬MUTIAN(ムティアン)について

次にFIPに有効とされているMUTIAN(現在はXraphconn :ラプコン)についてお伝えします。

  • MUTIANとは

MUTIANとはFIPの治療に有効とされている抗ウイルス薬です。MUTIANの有効成分はGS-441524だと考えられています。GS-441524と聞くととても難しいものに感じますが、ただの成分の名前です。この有効成分であるGS-441524はレムデシビルという既存の抗ウイルス薬の代謝産物です。ではレムデシビルとはなんでしょう?レムデシビルとは、エボラ出血熱やマールブルグウイルス感染症の治療薬として使われている抗ウイルス薬です。また、他にも、FIPと同じコロナウイルス感染症であるMERS(マーズ)やSARS(サーズ)に対しても有効であるということが言われています。ほとんどの薬は、体内に入ると代謝されて、その代謝されてできた物質が効果を示します。すなわち、レムデシビルが体内に入ると、代謝されてGS-441524が出来上がり、GS-441524がウイルスを撃退する、と考えてください。

 

  • MUTIAN薬理作用(副作用)

MUTIANは、ウイルスが増えようとする時に、その増殖をストップするように働きかけることで、直接ウイルスの増殖を阻害します。そのため、体内でウイルスが増えることができず、これによりMUTIANは抗ウイルス薬作用を示すのです。

先程も少し触れた通り、ほとんどの薬は、体内で代謝されます。その代謝が行われる代表的な臓器として肝臓があげられます。MUTIANも肝臓で代謝が行われるため、MUTIANでの治療開始後に、一部の猫ちゃんで肝酵素値の上昇が認められています。しかし、どの子も軽度〜中等度のものであり、少し肝臓が頑張りすぎた結果であるので、そこまでご心配していただかなくでも大丈夫かと思います。

また、その他の副作用として、以前の研究で、1匹の猫ちゃんの治療最終日に貧血を発症したとの報告があります。猫ちゃんは、プロポフォール、アセトアミノフェン、プロピレングリコールなどの特定の薬剤や成分に関連して、同様の貧血が生じることが以前から示されています。そのため、MUTIANにおいても一部の猫ちゃんでは、この副作用が起こり得るとも考えられます。

MUTIANに関しては、まだまだ不明瞭な点も多いですが、これまでに報告された副作用は、許容範囲であり、重篤なものではないと考えられており、よっぽど安全な薬であると言えるでしょう。

 

  • MUTIANの使い方

MUTIANは基本的に、84日間の経口投与で行います。FIPの病態や、重症度、また、その子の体重によりMUTIANの用量は変わるため、日々調整していきます。MUTIANには経口薬だけではなく、注射薬もあります。そのため、投薬が難しい子には注射でも大丈夫です。MUTIANの皮下注射による有効性はもちろん確認されていますが、長期間にわたるMUTIANの皮下注射を用いた過去の研究では、半数以上の猫ちゃんに注射部位反応という副反応のようなものが認められたという報告もあります。ですので、体調が良化し、おうちに帰れるようになったら、ぜひ経口の投薬で頑張りましょう!しっかり投薬指導もさせていただきますので、安心してくださいね!

 

  • FIPに対しての効果

過去の報告では、18匹のFIPの猫ちゃんのうち、治療期間84日以内に臨床的に全ての猫ちゃんが完全に回復し、再発もありませんでした。治療期間終了時には、ほとんどの猫ちゃんは健康で無症状で、生存率は100%となっています。18匹の猫ちゃんのうち、全ての子が治療開始後すぐに急速に体重が増え、体温が正常に戻り、胸水の量も減少しました。また、ほとんどの子は、治療前に血液中にウイルスが検出されましたが、治療開始から2〜4日目までに全ての子で、血液中のウイルス量が大幅に減少し、14日目までに、ウイルスは血液中に検出されなくなりました。