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猫のFIP(猫伝染性腹膜炎)ウエットタイプ、ドライタイプについて

猫のFIP(猫伝染性腹膜炎)ウエットタイプ、ドライタイプについて

東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の皆様こんにちは。大田区の上池台動物病院の院長の上野です。今回は、猫のFIP(猫伝染性腹膜炎)ウエットタイプ、ドライタイプについて解説をしていきます。

FIP(猫伝染性腹膜炎)とは、猫コロナウイルスというウイルスによる感染症です。この病気は発症してしまうとほぼ100%死んでしまうとても怖い病気です。FIPはどんな年齢・猫種の猫ちゃんでも発症する可能性のある病気ですが、特に1歳未満の若い猫ちゃんや純血種での発症が多いと報告されています。

このFIPは大きく分けて二つのタイプに分類されます。一つはお腹や胸に水が溜まってしまうウェットタイプ(滲出型)、もう一つは肝臓や腎臓などの色々な臓器に肉芽腫というしこりが出来てしまうドライタイプ(非滲出型)です。

今回は、FIPのこの二つのタイプについて解説していきます。

ウエットタイプ、ドライタイプの特徴

ウェットタイプのFIPには、腹水や胸水と呼ばれる水分がお腹や胸に溜まってしまうという特徴があります。腹水が溜まってくることに伴いお腹が張ってくるといった体型の変化に繋がることもあります。このタイプでは腹腔内や腹腔内の臓器に病変が見られることが多いです。

一方ドライタイプのFIPは、お腹の中に存在する肝臓や腎臓をはじめとした色々な臓器に化膿性肉芽腫という炎症によるしこりが出来てしまうことが特徴です。肝臓や腎臓が腫れてしまう他、臓器の辺縁がいびつに変化してくることがあります。更にドライタイプでは、中枢神経系や眼で病変がみられることが多くあります。お腹の中には病変がなく、中枢神経系あるいは眼にのみ病変が出来る例もあります。

このようにFIPはウェットタイプとドライタイプの二種類に分けられていますが、双方が混在するパターンもよく見られます。他にも、感染してすぐはウェットタイプの状態でしたがその後ドライタイプに移行する例や、ドライタイプが進行していく末期の状態で免疫が破綻しウェットタイプになる例も報告されています。

また、FIPはウェットタイプの割合の方が多いと言われています。そして、ウェットタイプの方がドライタイプより病気の進行が速いとも言われています。

ウエットタイプ、ドライタイプの症状の違い

FIPが発症するとウェットタイプ、ドライタイプに関わらず発熱や元気がなくなる、食欲不振、そして体重減少といった症状が現れます。黄疸や、消化管に炎症が及ぶことで下痢や嘔吐といった消化器症状を起こすこともあります。

ウェットタイプの場合はこれらの症状に加え、胸水が溜まってしまい、胸の中を圧迫することで呼吸困難を起こしてしまうといった症状が現れることもあります。他にも心臓の周りに水が溜まってしまうこと(心嚢水の貯留)により、全身の血液循環に問題が起きてしまうことや、腹水が溜まることでお腹が膨らんでくるといった変化がみられることがあります。

ドライタイプでは、中枢神経系に病変が現れることで神経症状を引き起こすことがあります。具体的には、運動失調やけいれんなどの発作、眼球が揺れ動く(眼振)、麻痺といった症状がみられます。他にも、眼に病変が現れることでぶどう膜炎や眼の中の出血(眼房出血)、左右で瞳孔の開きが異なるなどの症状も報告されています。

ウェットタイプとドライタイプの混合型では、これらのどちらの症状も認められます。

また、FIPでは稀ではありますが皮膚に症状が出てくることもあります。皮膚に複数のしこりが出来てくる、皮膚が脆くなるといった症状が報告されています。

FIPはなぜタイプがわかれているのか

FIPは免疫が関わっている病気であり、FIPウイルスに感染した猫ちゃんがウェットタイプかドライタイプのどちらの病型に進行していくかは免疫のバランスによるところが大きいと考えられています。免疫のはたらきには、細胞性免疫と液性免疫の二種類があります。このうち細胞性免疫のはたらきの強さが、ウェットタイプかドライタイプのどちらかに進行していくかに関係しています。

細胞性免疫がほとんどない場合、FIP発症後マクロファージや好中球という免疫細胞が血管からお腹や胸の中ににじみ出て広がってしまうことでこういった腹水や胸水が溜まってしまうと考えられています。

細胞性免疫がある程度働いているため、FIPウイルス感染後に慢性的な免疫障害を起こすことで化膿性肉芽腫が形成されていきます。

FIPの診断

FIPは診断が難しい病気です。上記で述べたようにFIPは様々な症状を起こし、その症状はFIP以外での病気でも一般的にみられることが多いため、症状を聞いただけでの判断を行うことが出来ず、診断には検査が必要になります。特に、ドライタイプの場合はウェットタイプ以上に診断が難しくなります。

FIPを疑う際は、まず、血液や溜まっている胸水、腹水の性状の検査、超音波検査を実施していく中でFIPに一致する所見がないかを見ていきます。FIPを発症している場合、血液検査にて高蛋白血症が認められることが多いです。

他にも、肝臓や腎臓が炎症により障害されているとそれに応じて肝酵素や腎臓に関連する数値(尿素窒素、クレアチニンなど)が上昇します。AGP(α1酸性糖蛋白)という炎症のマーカーとなる検査項目もFIP発症時に上昇してきますが、こちらの項目は他の炎症性疾患でも上昇するため、FIPかどうかの鑑別には注意が必要です。

FIPウイルスの変異元である猫コロナウイルスの抗体価を測定することで、体内のウイルスに対する抗体の量を調べることが出来ます。ただ、この抗体価は変異元の猫コロナウイルスに対するものなのか、FIPウイルスに対するものなのかを判断することが出来ないため、他の検査結果を踏まえたうえで総合的に結果の解釈を行わなければいけません。

ウェットタイプの場合は腹水や胸水にどのような細胞が含まれているかといった性状を調べることが診断のヒントにもなります。

こうした検査の結果からFIPの疑いが強い場合は、病変部からウイルスが検出出来ないかをPCR検査にて調べることが出来ます。

ウェットタイプの場合は胸水や腹水を採取し検査センターに送ることが出ます。一方で、ドライタイプは腹水などの貯留がなく検査に必要な材料の確保が難しいケースもあります。お腹の中にしこりがあるならば、手術でしこりを摘出、あるいは超音波検査のもとでそのしこりに針を刺すことで細胞を回収することが出来ます。

ただ、具合の悪い猫ちゃんに全身麻酔をかけて手術を行うことはリスクを伴うため、検査のための手術は実施出来ないことも少なくありません。また、神経症状が現れている猫ちゃんの場合は脳脊髄液を採取することでPCRの検査を行えます。

しかし、時にはPCR検査を行ってもはっきりとした診断がつきにくいこともあり、様々な検査結果を踏まえて総合的に判断していくことが重要です。

治療の方法

ウェットタイプ、ドライタイプのどちらであるかに関わらずFIPを完治させることは難しいと考えられています。これまで色々な抗ウイルス薬や免疫抑制剤が治療方法として試されていますが、残念ながら有効性の高い治療は確立されていません。

しかし、近年の獣医学の進歩に伴い、FIPの治療に有効であったという薬が出てきています。例えば、MUTIANという薬や新型コロナウイルスの薬がFIPに対して効果があると言われています。

FIP、特にウェットタイプの場合は病気の進行が速いため早期の治療開始がとても重要です。

FIPは致死性の高いとても怖い病気であり、早期発見・早期治療が必要です。お家のねこちゃんの様子がいつもの違うなと感じることがありましたら早めの受診をしましょう。

なお、FIP治療についてはこちらの記事で詳しく解説しています。治療についても知っておくことで、愛猫にFIPの予兆が現れたときに迅速な対応ができるでしょう。

当院でのFIPの診断・治療に関しては
こちらを参照の上ご相談下さい。

ラインでの無料相談も行なっています。

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