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モルヌピラビルは猫のFIPに有効?費用や適切な投与方法についても解説

モルヌピラビルは猫のFIPに有効?費用や適切な投与方法についても解説
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この記事の監修者

上野雅祐

上野雅祐

上池台動物病院の院長を務める。海外でのセミナーや国際学会、海外大学への短期留学などでジャンルに囚われない幅広いスキルを磨き、外科・腫瘍・皮膚等の専門的で総合的な治療を提供する。

▼略歴

  • 麻布大学 獣医学科卒業(学業成績優秀者)
  • 千葉県 中核の動物病院にて勤務医
  • 神奈川県 外科認定医・整形専門病院にて勤務医
  • 専門病院にて一般外科・整形外科に従事
  • 日本小動物がんセンター 研修医


▼所属学会・資格

 

猫のFIPを治療するにあたって、費用面の安さからモルヌピラビルを提案する動物病院が増えています。

「モルヌピラビルは他の薬と比べてかなり安いと聞いたけど、本当に効果があるの?」
「危険性はない?」

このように考える飼い主さんも多いでしょう。

この記事では、猫のFIPにおけるモルヌピラビルの有効性や、選択するメリット・デメリットを解説しています。

モルヌピラビルはたしかに安価で選択しやすい薬ですが、愛猫の救命を考えたときに必ずしも第一選択肢になるとは限りません

費用面も考慮しつつどのように治療を進めるべきか迷う場合は、FIPの相談件数が700件を超える当院へとご相談ください。

当院のFIP治療について

モルヌピラビルとは?

モルヌピラビルとは?

モルヌピラビルは、ヌクレオシドアナログと呼ばれるタイプの薬です。体内に入って代謝されると、ウイルスの「遺伝子合成の材料となる物質」に「似た物質」に変化します。

この類似物質により、以下のような原理でウイルスの増殖が抑制されます。

<モルヌピラビルでウイルスの増殖が抑制される原理>

  1. ウイルスが類似物質を遺伝子合成に利用する
  2. 誤った材料でウイルスの遺伝子合成が進む
  3. 遺伝子の突然変異が多発し、ウイルスの遺伝子合成がうまくできなくなる

モルヌピラビルが猫のFIP治療で注目され始めた背景

モルヌピラビルが猫のFIP治療で注目され始めた背景

もともとモルヌピラビルは、人の新型コロナウイルスの治療のために開発された薬です。猫のFIPもコロナウイルス(ただし、人の新型コロナウイルスとは別物)が原因となるため、FIP治療においても有効性が注目され始めました。

コロナ禍において、モルヌピラビルは人の新型コロナウイルスの治療薬として流通するようになり、比較的安価にかつ安定的に入手できるようになりました。入手性が向上したため、治療に使用しやすくなり、導入する動物病院が増えています。

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モルヌピラビルと他の治療薬(GS製剤)の違い

モルヌピラビルと他の治療薬(GS製剤)の違い

モルヌピラビルもGS製剤も共にヌクレオシドアナログという分類の薬ですが、作用する部分が異なります

GS製剤は、細胞の中に入ると抗ウイルス作用を示す活性代謝物となります。この活性代謝物はウイルスが遺伝子合成を行う際に働く酵素のエネルギー源と類似の物質であり、酵素に取り込まれることでエネルギーが供給されなくなり、ウイルスの遺伝子合成が止まります。

一方、モルヌピラビルについては、ウイルス合成に用いる材料を誤ったものにする薬です。ウイルス合成に用いる材料を誤ったものにすることで、遺伝子突然変異が多発して正確な遺伝子が構築されず、ウイルスの合成が止まります。

作用機序は異なりますが、ウイルスの増殖を抑制するという点は共通しています。投与経路については共に経口投与が可能であり、GS製剤については注射での投与も可能です。

猫のFIP治療でモルヌピラビルを投与する場合の目安費用

猫のFIP治療でモルヌピラビルを投与する場合の目安費用

費用については症例の状況により異なりますが、84日間の治療とした場合、薬代のみで20万〜40万円程度となることが多いようです。

これは、GS製剤のみでの治療を行った際の半分以下のコストとされています。

猫のFIP治療にモルヌピラビルを選択するメリット

猫のFIP治療にモルヌピラビルを選択するメリット

猫のFIP治療にモルヌピラビルを選択するメリットは、以下の2点です。

  • コストが安い
  • 経口投与ができる

コストが安い

低コストであることによって、治療の継続がしやすいというメリットがあります。

FIP治療においては、投薬期間が長いことが治療を難しくする要因の一つです。その期間常に薬が必要となると、コストが高い場合には諦めてしまうことも少なくありません。

薬が安価であれば、無理なく治療を継続することが可能です。

経口投与ができる

経口投与が可能であるため、自宅での治療にも対応できます。猫ちゃんに慣れない環境下での入院治療を強いることなく、治療によるストレスが軽減されます。

猫のFIP治療にモルヌピラビルを選択するデメリット

猫のFIP治療にモルヌピラビルを選択するデメリット

モルヌピラビルによるFIP治療は安価である一方、以下のようなデメリットもあります。

  • 症例数が少なく安全性が確立されていない
  • 高容量かつ長期間の投与となるため副作用のリスクが増加する

症例数が少なく安全性が確立されていない

モルヌピラビルを用いたFIP治療については、まとまった数の症例報告はなく、特に長期間継続的に投与を行った場合の副作用については明確なデータがありません。そのため、長期の投与には慎重な経過観察が必要になります。

高容量かつ長期間の投与となるため副作用のリスクが増加する

特に、神経や眼に症状が出る症例や治療反応の悪い症例については、投薬が高用量・長期間に及ぶことがあるため、副作用リスクが高くなります。

モルヌピラビルの影響は用量に依存すると考えられているため、長期に及ぶ投薬や高用量の投薬はそれだけ副作用リスクの増大につながると考えられます。

猫にモルヌピラビルを投与した場合の副作用

仰向けで遊ぶ猫

モルヌピラビルでみられる主な副作用は、脱毛、耳折れ、肝酵素数値の上昇、特徴的なものとして骨髄が抑制されることで起こる白血球の減少があります。

その他に、人に対する安全性確認において、実験動物での使用で催奇形性が指摘されており、妊娠動物での使用には注意が必要と考えられます。

猫に対するモルヌピラビルの適切な投与方法・投与量

猫に対するモルヌピラビルの適切な投与方法・投与量

投与方法については、FIPの病型に合わせて用量調整を行った薬を、経口で84日間投与します。

基本的には投薬の際の食事の影響は受けない薬と考えられており、ムティアン(GS製剤)と異なり絶食等は必要ありません。

モルヌピラビルは粉末の薬なので、食事等に混ぜるのは推奨されません。全量が摂取できないと投薬量の低下につながるため、カプセルでまとめて投与することが望ましいです。

モルヌピラビルとムティアン(GS製剤)を組み合わせた治療の有効性

いろいろな表情の顔が描かれている錠剤

現在、モルヌピラビルとムティアンなどのGS製剤を組み合わせた治療については、不明な点が多くはっきりとした治療法は確立していません

同時使用での相乗効果の可能性は秘めていますが、代替治療の選択肢が減ることや費用面から当院では推奨しておりません。

モルヌピラビルを個人輸入で入手し自己判断で投与する危険性

猫にモルヌピラビルを投与した場合の副作用

自己判断に伴い投与量が不十分であったり投与方法に問題があったりすると、期待した効果が得られず、場合によってはウイルスの耐性獲得の原因となります。

ウイルスが耐性を獲得するとGS製剤の効果にも影響が出る恐れがあり、治療自体が不可能になることもあります。そのため、医師の指導のもと適切な量を適切な方法で病状に合わせて投与することが重要です。

当院におけるモルヌピラビルを用いた症例

当院におけるモルヌピラビルの症例
  • 性別:メス
  • 品種:ミックス(雑種)
  • 年齢:不詳

近所の動物病院でFIPが疑われると判断され、その後に当院を受診されました。

検査では血液数値の異常や胸水、腹水、腹部腫瘤を認めました。

初期治療として1週間ムティアンでの治療を行い、その後モルヌピラビルへ切り替えての治療を実施。治療開始後1ヶ月程度で腹水および胸水、腹部にみられた肉芽腫を思わせる腫瘤は消失しました。その後は順調に回復し、投与開始から4ヶ月半で治療終了となりました。

その後はモニタリングとして血液検査等を実施し、現在は経過観察も終え通常の生活に戻っています。

この症例は、血液検査で一部数値の改善が遅く、延長投与を実施していましたが、その間も副作用による影響はみられませんでした。

当院におけるモルヌピラビルに対する考え方

当院におけるモルヌピラビルに対する考え方

当院では、モルヌピラビルはムティアン(GS製剤)を用いた治療が無効となった場合のレスキュー用として位置づけています。初期治療はムティアンを用いた治療から始めていただくほうが、治療の確実性は高いと考えております。

費用面でムティアン治療の継続が難しい場合でも、急性期の治療を可能な範囲でムティアンで行い、その後モルヌピラビルでの治療に切り替えるほうが、モルヌピラビル単体での治療より救命率は高いです。

神経タイプが疑われる症例については、脳への薬の分布の観点からモルヌピラビルのほうが効果が高いと考えられています。しかし、ムティアンを神経タイプに合わせた適切な量で使用すれば、問題なく治療ができます。神経タイプが疑われる症例でも基本的にはムティアンで治療をしていただき、効果が認められなくなった場合の次の手段としてモルヌピラビルを残しておくことをおすすめしています。

「他院での治療の反応が悪かった」「費用面が安いモルヌピラビルを選択してよいのかどうか迷っている」という場合は、ぜひ当院にご相談ください。FIPに関する相談件数700件を超える当院では、猫ちゃんの状態を正確に診断し、救命のために最善の治療方法を提案できます。

当院のFIP治療について

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